グラウンドエフェクトのF1が抱える「ポーパシング(ポーポイズ現象)」とは

グラウンドエフェクトのF1が抱える「ポーパシング(ポーポイズ現象)」とは

2022年、F1はフロア下の「ベンチュリトンネル」でダウンフォースの大半を生み出すマシン、いわゆる「グラウンドエフェクトカー」になった。

その新時代のプレシーズンテストが始まると、とある現象がみられるようになった。それが「ポーパシング(Porpoising)」である。ストレートを全開で走行すると、マシンが跳ねてしまうのだ。

Twitter@formula1 より

ポーパシング、もともとはネズミイルカ(porpoise)が水面を跳ねるように泳ぐ様子を表した言葉で、航空機が体勢が整わないまま着陸し、跳ねてしまう現象を表す場合もある(これは空力とは関係ないが)。

F1では、初のグラウンドエフェクトマシンが出現した1980年代にでも登場した言葉だ。21世紀のこの時代に再度帰ってきたこの原資應、どのようなものなのか?

まずはグラウンドエフェクトを理解する

ポーパシングは、グラウンドエフェクト(地面効果)を利用するマシンに特有の現象だ。それを理解するには、まずグラウンドエフェクトについて整理する必要がある。

グラウンドエフェクトマシンは、フロアの下に「ベンチュリトンネル」を備えるマシンを指す。ベンチュリトンネルとは、下のような真ん中が狭い管のこと。空気(流体)力学を学ぶ上で必ず触れられるものだ。

ベンチュリトンネル(ベンチュリ管とも)に気流が流れると、内部の物理状態が興味深いことになる。入り口と出口に比べ、真ん中の狭い部分の気流のスピード(流速)が上がり、つられて圧力が小さくなるのだ。

(詳しくは「ベルヌーイの定理」で検索してほしい)

この状態をF1に置き換える。F1の場合はフロア下にベンチュリトンネルを設置している。

空間内の圧力が小さくなる、すなわちフロア下面と路面の空間の圧力が小さくなるということは、マシンは地面に吸い付けられることになる。これがグラウンドエフェクトであり、ダウンフォースが生み出される仕組みなのだ。

本題、ポーパシング

さて、本題に移る。前述の通り、ポーパシングが起こるとマシンは跳ねるような挙動を見せる。

この仕組みを順序立てて見ていこう。

F1マシンはストレートに入ると、速度は300km/hを超える。当然、ベンチュリトンネルに入る流速も速くなる。

するとベンチュリトンネルの真ん中の流速もさらに速くなり、さらに圧力も減り、ダウンフォースが増加。マシンはさらに下に押し付けられる。

そしてベンチュリトンネルと路面の隙間は狭くなる。この隙間がある一定より狭くなると、逆に空気の流れが滞り、地面効果が失われ、ダウンフォースが急に減少してしまう。

④ダウンフォースを失ったマシンは、地面から浮き上がる。そうなれば、再びベンチュリトンネルとの隙間が回復し、再度地面効果が復活。→②へ

…以上のことが高速で繰り返され、マシンはポンポン跳ねるような挙動を見せるのだ。

跳ねるマシンは、明らかに安定性が失われる。この状態でバトルが行われ、マシンを急速に左右に動かしたら…、恐ろしい光景が待っているに違いない。

この危険な現象、防げるのか?

現象の発生自体は、昨年から予測されていたという。しかし、風洞の実験では、サスペンション、路面の硬さなどが完全に再現されておらず、発生するという確信がされていなかった。

290km/h以上で発生するとされているが、どのマシンにいつ発生するか、その正確な予測は現時点では難しい。

最も単純な防止策は、ベンチュリトンネルで発生するダウンフォースを減らすことだ。ハイスピードに達しても、路面との隙間が小さくならない程度のダウンフォースに制限すれば、この現象は発生しない。

とある技術者は、もう少し合理的な対処法を語っている。

初のグラウンドエフェクトカーが登場した当時、その技術者が語るには、ベンチュリトンネルの入り口を狭くすることがなされた対処法だったという。具体的には、現象が発生しない入口と真ん中部分の広さの最適な比を見つけることだ。

この対処法も、ダウンフォースの量を犠牲にすることになる。しかし、単にダウンフォースを減らすだけよりはクリエイティブな方法だ。

対処はチームの最優先事項か

ポーパシングが起きれば、ストレート、特にトップスピードが出るブレーキング直前ではバトルが不可能になるだろう。最大のパッシングポイントであるブレーキングで勝負できなければ、事実上トラック上で順位を上げるのは難しい。

チームは、あらゆるエアロパーツよりも先に、この現象の処理に追われることだろう。


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