F1の燃料の話2022：市販ガソリンとはどれほど違うのか？

F1の燃料の話：市販ガソリンとの違い

燃料（Fuel）はF1マシンの唯一のエネルギー源だ。実際に回るのはエンジンであり、タイヤだが、根本的なエネルギー源を持つのはガソリンなのだ。

それだけに、燃料の存在は大きい。2019年にはフェラーリが燃料流量をこっそり増やし、グリッド随一の直線速度を発揮していた（あくまで疑惑とされているが…）。

F1の燃料はどう規定されているのか？市販がガソリンとの違いは？

  • F1の燃料
  • 燃料のレギュレーション
  • 市販ガソリンとの比較
  • F1マシンに市販ガソリンを入れたら？

F1の燃料

F1には５社の燃料メーカーが参入している。ペトロナス（マクラーレン除くメルセデスPU）、エクソンモービル（全レッドブル・ホンダPU）、シェル（全フェラーリPU）、ガルフ（マクラーレン）、カストロール（全アルピーヌPU）だ。

この各社が、それぞれのエンジンに最適な燃料を開発している。最高峰のエンジンのパフォーマンスを上げるために、燃料メーカーはPU開発班と協力し、レギュレーションの範囲内でそのPUに最適な燃料を開発し続けている。

つまり、それぞれのメーカーの燃料は若干異なるのだ。メルセデスPUのシェル社燃料を入れても、同じパフォーマンスが発揮されるとは限らない。

F1の燃料に関するレギュレーションは？

F1マシンに使われる燃料はの規則は、2022 フォーミュラ１スポーティング規則第16条「燃料とエンジンオイル」に記されている。

燃料の基本理念として、第16条1.2に「（前略）市販燃料に通常みられる化合物で構成される燃料の使用を確実にし、特定のパワーブーストがある化合物の使用を禁ずる…（後略）」とある。このように、一般的に売られているガソリンと比べて特殊な物質を入れることは禁止されている。

この後は各物質の定義、規定、燃料試験の方法などが事細かに記されている。これについては省略するが、ではF1の燃料は市販の燃料とどう違うのか、比較してみよう。

F1と市販のガソリンの比較

F1のレギュレーション、EUの、日本の規格から一部を抜粋し、比べてみた。

内容　　　　F1規格(2022)　　　　欧州規格日本規格　　　　　
オクタン価87以上90以上96(ハイオク)or89(
レギュラー)以上
蒸気圧45~68kPa60.0kPa以下（夏季）44~78kPa（37.8℃）
酸化安定性360分以上240分以上
最終沸点210℃以下220℃以下
ベンゼン1wt%以下1.0%v/v以下1%v/v以下
酸素 3.45wt%以上3.7wt%以下3.7wt%以下
エタノール10%v/v以上（サステイナブルなもの）10.0%v/v以下10％v/v以下
硫黄10mg/kg以下10.0mg/kg以下0.0010wt%以下
鉛5mg/L以下5mg/L以下検出されない

F1がEUの規格を導いたということもあり、ヨーロッパでの市販ガソリン規格との差はあまりない。さらに言えば、2021年版F1レギュレーションでは蒸気圧、酸素、エタノールの数値も完全にEUの規格に準拠していた。

F1の燃料は、一般的に購入できるガソリンと同じ枠組みの中で開発されていたのだ。

もしF1マシンに市販のガソリンをいれたら？

市販ガソリンとは似通っているとはいえ、F1の燃料は高度に開発されている。「温室育ち」のF1マシンに市販の燃料を入れたら、どうなるのだろうか？

この質問には、フェラーリとシェルが答えてくれた。

彼らは2011年に所有するテストコース、フィオラノで実験を行った。2009年のマシンを用い、当時のレギュラードライバー、フェルナンド・アロンソが走行をした。初めにF1の燃料で4周を走り、その後市販のガソリンで4周を走ったのだ。

F1用燃料のラップで、アロンソは1:03.950を記録した。その後市販ガソリンに入れ替えると、タイムは約0.9秒下がった。

詳細なデータでは、市販ガソリンでは加速性能が下がってることが分かった。ところがだ、市販ガソリンの方が最高速が速かったのだ！

どうやら、F1の燃料と市販ガソリンとの差異は少ないようだ。ラップタイムを追求したガソリン、それがF1で使われている燃料なのだ。

参考ページ

この記事はわかりやすいように編集してあるので、細かく参考にする場合は下のページなどを参考にすることを推奨する。

F1CHRONICLE「F1はどんな燃料を使っているのか？」（Formula 1 Fuel: What Fuel Do F1 Cars Use? – F1 Chronicle）

F1 2022 テクニカルレギュレーション（https://www.fia.com/sites/default/files/formula_1_-technical_regulations–2022–iss_7-_2021-10-15.pdf）

ENEOS 「石油便覧」（第2編第1章第1節　自動車ガソリン｜石油便覧－ＥＮＥＯＳ (eneos.co.jp)）

CEN 欧州標準化委員会（CEN-CENELEC – CEN-CENELEC (cencenelec.eu)）